東京地方裁判所 昭和57年(ワ)13227号 判決 1985年10月28日
原告
有限会社阪神観光
右代表者代表取締役
下坂裕一
右訴訟代理人弁護士
佐藤禎
前原仁幸
被国
国
右代表者法務大臣
嶋崎均
右指定代理人
立石健二
外五名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年四月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は原告に対し、別紙(一)の「日本国政府の反省」と題する日本政府広報を、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞及び神戸新聞各日刊版社会面政治関係記事下の二段二〇センチメートル枠内に、見出し・二倍半太字、本文・一倍半太字の活字を使用して、各一回掲載せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 1につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 主文同旨の判決
2 担保を条件とする仮執行免脱宣言。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は料理店、飲食店、接客業等を営む会社である。
2 訴外大阪芸能労働組合(以下「本件組合」という。)は、大阪府地方労働委員会(以下「大阪地労委」という。)に対し、原告を被申立人として、不当労働行為救済の申立てをし、審査の結果、大阪地労委は、昭和四九年四月一三日付けで別紙(三)の命令書記載のとおりの救済命令(以下「初審命令」という。)を発した。原告は、初審命令を不服として、中央労働委員会(以下「中労委」という。)に対し再審査の申立てをしたところ、中労委は昭和五〇年一一月五日付けで別紙(二)の命令書記載のとおりの救済命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令書は、同年一二月二一日、原告に交付された。
3 ところで、本件命令は、原告が団体交渉拒否及び支配介入の不当労働行為を行つたと判断し、原告に対し作為を命ずる救済命令を発した初審命令を維持し、更に追加して作為を命じているが、以下に詳述するとおり、本件組合が労働組合法(以下「労働法」という。)所定の救済適格を有する労働組合であるとしている点、原告が労組法七条の使用者であり、訴外向田バンド楽団員ら及び同小西バンド楽団員らが原告の使用する労働者であるとしている点、及び原告に陳謝、誓約する旨の文章の掲示等作為を命じ得るとしている点に誤りがあつて、本件命令は違法である。
(一) 本件組合は、次のとおり労組法五条二項三、四号の規定に適合しないうえ、同法二条但書一号に牴触する組合であり、加入者である阪神在住の芸能人の待遇を含む福利共済に当たる一種の社会団体にすぎず、労働組合でない本件組合に対する団体交渉の拒否等が不当労働行為を構成することはありえない。
(1) 労組法五条二項三号は、組合規定の必要的規定事項として組合員がその労働組合のすべての問題に参与する権利及び均等の取扱いを受ける権利を有することを定めているが、本件組合は使用者を異にする約四〇〇名の楽士らによつて組織されているものであつて、特定の組合員の労働条件の維持改善等の問題は使用者を異にする他の組合員にとつて直接利害関係がないから、個々の組合員をすべての問題に参与させ、かつ均等に取り扱うことは不可能である。しかも、本件組合は所属組合員の勤務先、住所、収入等を明確に把握していないからなおさらである。したがつて本件組合は前記法条に適合する労働組合ではないのである。
(2) 労組法五条二項四号には、組合規約の必要的規定事項として「何人も、いかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によつて組合員たる資格を奪われないこと。」と定めており、職種によつて組合員資格を制限することも同号に違反するものであるところ、本件組合は阪神地区の楽士によつて組織された楽士組合であつて、職種により加入資格を制限する労働組合であるから、同号に適合する労働組合ではない。
(3) 訴外向田勝彦(以下「向田」という。)及び同小西之則(以下「小西」という。)は本件組合の組合員であるが、右両名はそれぞれ向田バンド及び小西バンドのバンドマスターであり、それぞれ各楽団の編成、楽器の割振り、楽団員の採用、解雇、欠員補充、出演料の配分、出退勤管理、演奏技能の教育訓練等楽団の維持管理に関する業務をすべて担当処理しているものであるから、仮に原告と右両名の間に雇用関係があるとしても、右両名は、人事労務管理の執行責任を負う労働者であつて、労組法二条但書一号所定の「雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者」に該当する。したがつて本件組合は、同号に牴触する労働組合である。
(二) 本件命令は、原告を労組法七条の「使用者」であると判断しているが、原告は、小西バンド及び向田バンドの各バンドマスターである小西及び向田と右各バンドの演奏請負契約を締結したものであり、原告と各バンドの個々の楽団員との間には何らの契約関係がないうえ、個々の楽団員の出欠勤、代演又は個々の楽団員が他社で出演することも自由であるから、原告が各バンドのバンドマスターを含む個々の楽団員の労働力を排他的に支配しているということはできないから、原告と各バンドマスターを含む個々の楽団員らとは使用従属の関係がなく、原告は労働法七条の使用者に該当しないし、右楽団員らは同条の労働者に該当しないので、本件命令はこの点において判断を誤つており、違法である。
(三) 本件命令は、原告が不当労働行為をしたことを陳謝し、将来同種の行為を繰り返さないことを誓約する旨記載した文書の掲示を原告に命ずるなど作為を命じた初審命令を維持し、更に追加して作為を命じているが、このように作為を命ずることは、労組法七条に違反して、違法である。
4 中労委は被告国の公権力の行使に当たる機関であるところ、中労委は、故意又は過失により、前記のとおり違法な本件命令を発したものであるから、被告は国家賠償法一条一項により、原告の被つた損害を賠償すべき義務がある。
5(一)(1) 原告は、昭和五〇年一二月から同五八年四月まで、小西バンドに金三四八三万円、向田バンドに金一億二六七四万七九五五円、合計金一億六一五七万七九五五円を支払つたが、右は本件命令がなければ本来支出する必要がなかつた経費であり、原告は右同額の損害を被つた。
(2) 原告は、中労委に対し、本件命令の取消を求める行政訴訟を提起し、遂行することとし、これを弁護士佐藤禎、同前原仁幸(本件原告訴訟代理人ら)に委任し、第一審(東京地方裁判所)原告勝訴の判決第二審(東京高等裁判所)控訴棄却の判決が言渡され、現在中労委から上告中であるが、右訴訟提起、追行につき両弁護士に対し、昭和五〇年一二月から同五八年五月までの間に、費用等として合計金九三八万五六〇〇円を支払い、同額の損害を被つた。
(3) 原告は右(1)、(2)の合計額のうち金一〇〇〇万円を本訴において請求する。
(二) 原告は本件命令により名誉を毀損されたので、その回復のための措置として、被告に対し、請求の趣旨2記載の謝罪広告をするよう求める。
6 よつて、原告は被告に対し国家賠償法一条一項に基づき、損害賠償内金として、金一〇〇〇万円及びこれに対する本件不法行為後である昭和五八年四月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、原告の名誉回復のための措置として請求の趣旨2記載の謝罪広告を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同3の冒頭並びに(一)ないし(三)の事実及び主張は争う。
3 同4の事実及び主張は争う。
4 同5(一)、(二)の事実及び主張は争う。
三 被告の主張
1 原告の主張がそれ自体失当であることについて
(一) 労働委員会は、労組法二七条の規定により、不当労働行為救済申立事件の審査をする権限を有しているが、労働委員会による右審査は①証拠による事実の認定、②右認定事実に対する法律の適用、③結論の決定という一連の過程を辿つて行われる点で裁判所が行う裁判と異なるところがなく、その意味において、労働委員会は司法的機能を営む機関ということができる。そして、労働委員会による右審査の公正を確保するために、法律上、審査の手続面及び審査の主体である労働委員会の組織面の双方について、裁判の公正確保の建前に準じた配慮がされているものである。
(二) ところで、最高裁判所昭和五七年三月一二日判決(民集三六巻三号三二九ページ)は、「裁判官がした争訟の裁判につき国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があつたものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、右裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によつて是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず、当該裁判官が違法又は不当な目的をもつて裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とする。」旨判示している。そして、前記のとおり、審査の手続面及び労働委員会の組織面の両面にわたり、法律上、裁判の公正確保のためにとられている諸措置に準じた措置がとられていることに照らせば、右の理は、中労委がした救済命令についても、基本的には妥当するものであつて、中労委が命令を発するにあたり、違法又は不当な目的をもつて事実認定や法令の解釈をわい曲するなど、中労委がその付与された審査権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があつて初めて、中労委がした救済命令につき国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があつたものとして国の損害賠償責任が生ずるものというべきである。
(三) しかるところ、原告は、本件命令の違法をいうに当たり、右のような特別の事情について何ら主張するところがないのであるから、原告の主張は主張自体失当というほかはない。
2 請求原因3(一)、(二)の主張について
原告が右主張において提起しているのは、要するに、向田バンド及び小西バンドの楽団員らの労働法上の法的地位をどのように評価し、位置づけるかという問題といいうる。
右の点が見解の分かれ得る微妙な問題であることは、本件命令及び大阪地労委の初審命令における判断と本件命令の取消訴訟の第一審、第二審裁判所の判断が異なつたこと自体からもうかがわれるところであるが、さらに、原告と本件楽団員らとの間における労働契約不存在確認請求本訴・従業員地位確認等請求反訴の民事訴訟の第一審、第二審裁判所の判断が右の本件命令取消訴訟の裁判所の判断と異なつて逆に本件命令の判断と基本的に同趣旨であることからも充分看取できるところである。
また本件楽団員らと多少とも類似した要素を持つた者が相手方との関係において労働組合法七条に規定する「労働者」と「使用者」の関係に該当するか否かが争点となつた事案について、昭和五一年五月六日の同一日付けの二つの最高裁第一小法廷判決のうち、昭和四九年(行ツ)第九四号事件に係る判決(民集三〇巻四号四〇九ページ以下。)はいわゆる社外工とその受入会社との関係につき、昭和四九年(行ツ)第一一二号事件に係る判決(民集同巻同号四三七ページ以下。)は民間放送会社の放送管弦楽団員と右放送会社との関係につき、いずれも「労働者」と「使用者」の関係を肯定していることも、本件楽団員らの労働法的評価、位置付けの微妙さ、困難さを示しているものと言うことができる。
中労委は、本件命令において、本件楽団員らは、原告との関係において労働組合法七条二号に規定する「使用者が雇用する労働者」に該当するとし、原告の団体交渉拒否を不当労働行為と判断したものであるところ、本件命令が維持されるべきか否かは本件命令に係る取消訴訟において裁判所が判断する事柄であり、その最終的結論がいずれになるかはともかく、中労委が本件命令においてなした判断は、前記のとおり見解の分れうる微妙な問題点について、少なくとも充分に成り立ちうる見解であつて、本件命令の発付が、中労委公益委員らの違法な行為であるとか、右委員らに故意又は過失があるということは、到底できないことは明らかであり、原告の主張は失当である。
3 請求原因3(三)の主張について
原告の右主張は、労働組合法二七条の規定する労働委員会の救済命令において命じうる救済の内容の限界に関する問題である。
この点に関し、最高裁昭和五二年二月二三日大法廷判決・民集三一巻一号九三ページ以下は、労働組合法が労働委員会の救済命令制度を採用したのは、「使用者による組合活動侵害行為によつて生じた状態を右命令によつて直接是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るとともに、使用者の多様な不当労働行為に対してあらかじめその是正措置の内容を具体的に特定しておくことが困難かつ不適当であるため、労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対し、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、これを命ずる権限をゆだねる趣旨に出たものと解される。」と判示しており、右のとおり救済命令が使用者の作出した組合活動侵害状態を是正するために事案に応じた措置を講ずるものである以上、それに必要な作為、不作為を命じ得ることは当然のことであり、実務上、あるいは学説上広く是認された見解であつて、救済命令においては不作為を命じうるにとどまり作為を命ずることはできないとする原告の主張は独自の見解であつて失当である。
また、救済命令においてどのような救済措置を命ずるかは労働委員会の広い裁量に委ねられているものであつて、前記最高裁大法廷判決も、前記引用部分を受けて、「法(労働組合法)が、右のように、労働委員会に広い裁量権を与えた趣旨に徴すると、訴訟において労働委員会の救済命令の内容の適法性が争われる場合においても、裁判所は、労働委員会の右裁量権を尊重し、その行使が右の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であつて濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではないのである。」と判示しているところである。
本件命令には、もとより労働委員会の右のような裁量権を逸脱、濫用した点は存しないものである。
四 被告の主張に対する原告の反論
1 被告の主張1ないし3はすべて争う。
2 被告の主張1について
労働委員会は、いわゆる行政委員会であつて、その権限は、警察・検察・税務等と同様の行政作用に属するものであるから、中労委の発する救済命令を、司法権に属する争訟の裁判の場合と同一視することはできず、救済命令について国家賠償法一条一項の規定にいう違法行為があつたとして国に損害賠償責任が生ずるために、被告主張のような特別の事情は必要でない。
3 仮に、本件につき被告主張の特別の事情が必要であるとしても、中労委は、本件組合の組合員による原告代表者に対する暴力行為等によつて、原告あるいは原告代表者の被つた物心両面の損害を全く評価せずに本件命令を発令しており、右事実に徴すれば中労委が原告に対し加害の意思をもつて本件命令を発したことを推認することができるものであつて、本件においては、被告の主張する国の損害賠償責任が肯定されるための特別の事情が存するものというべきである。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。
二そこでまず被告の主張1について検討することとする。
1 労働委員会による不当労働行為の救済命令は、性質上行政機関の発する行政処分ではあるけれども、労働委員会は、いわゆる準司法的機能をも有する行政委員会であつて、右救済命令は、このような機能を有する行政委員会による準司法的判断作用であり、したがつて、その違法性を検討するについては、そのような判断作用の本質に由来する制約、すなわち、判断機関たる行政委員会の独立性、不服申立ないし審級制度、自由心証主義、価値評価の多様性等による限界があることに留意すべきであり、労働委員会による法令の解釈、適用の誤りが直ちに国家賠償法上の違法を意味するものではなく、それらは認められた不服申立手続(救済命令の取消訴訟)で是正されるべき事項にすぎないのであり、労働委員会が違法又は不当な目的をもつて救済命令を発令したなどその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めるに足りる特別の事情がある場合に、国家賠償法上違法となるものというべきである。
この点を更に敷衍して検討することとする。
2 右の理は、裁判官がした争訟の裁判については、既に最高裁判所昭和五七年三月一二日判決(民集三六巻三号三二九ページ)が、右裁判につき国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があつたものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、「右裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によつて是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず、当該裁判官が違法又は不当な目的をもつて裁判したなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とする。」旨判示しているところである。
3 ところで労働委員会による不当労働行為救済申立事件の審査は、証拠による事実の認定、右認定事実に対する法律の適用、結論の決定という一連の過程をたどつて行われる点で裁判所が行う裁判と異なるものではなく、そのため、審査の手続面においても審査の主体である労働委員会の組織面においても、審査の公正を確保すべく、法令上、裁判の公正確保のためにとられている配慮に準じた配慮がされているものということができる。中労委についてこれをみると、その組織、再審査手続等は、次のとおりである。
(一) 中労委は、国家行政組織法(昭和二三年法律第一二〇号)別表第一に掲げられている「行政組織のために置かれる国の行政機関」(同法三条二項)であるが、その組織は使用者を代表する者(使用者委員)、労働者を代表する者(労働者委員)及び公益を代表する者(公益委員)各同数(九人)をもつて構成され、(労働組合法(以下「労組法」という。)一九条一項)、労組法等に規定する権限を独立して行使しうる(労組法施行令一六条)とされている。
そして、不当労働行為の審査のような判定的な機能については、公益委員のみで構成する公益委員会議(労働委員会規則(以下「規則」という。)三条)が行い、中労委の公益委員会議は、地労委が不当労働行為救済申立事件について発した命令を取り消し、承認し、若しくは変更する完全な権限を有しているものである(労組法二五条二項、規則九条二項)。
(二) 中労委の委員は、労働大臣が任命権を有してはいるが、公益委員にあつては、労、使委員に、公益委員に任命しようとする候補者の名簿を提示して、その同意を求め、同意があつた者の中から任命しなければならない(労組法施行令二〇条二項)、こととなつている。
また、委員の任期は二年であるが(労組法一九条一一項)、任期中、委員が禁治産者になるなどその資格を失つたとき(同条八項)、公益委員が自己の行為により、四人以上同一の政党に属することになつたとき(同条九項)には当該委員は当然退職するほか、労働大臣は委員が心身の故障のために職務の執行ができないと認めたとき、又は委員に職務上の義務違反その他委員たるに適しない非行があると認めたときは、その委員を罷免することができるが(同条一〇項)、その場合でも、中労委の総会で決せられた、中労委の同意が必要とされ(同項、規則五条一項六号)、委員の身分が保障されている。
(三) 中労委における地労委の発した命令の再審査は、その命令の当事者のいずれか一方の申立て(期間はいずれの当事者についても、命令書の交付から一五日以内である。労組法二七条五項、一一項)に基づいて、又は職権によつて行われ、その手続は、初審手続に関する規定が、その性質に反しない限り、再審査手続に準用されており(規則五六条一項)、それは次のとおりである。
(1) 不当労働行為の審査手続は、申立てにより開始され、その申立権者について労組法及び規則に格別の定めはないが、不当労働行為によつて影響を被る労働組合又は労働者が申立人となりうると解されており、労働委員会(中労委又は地労委、以下「委員会」という。)の職権ないし他の行政機関の申立てによつて手続が開始されることはない。もつとも、例外的には、委員会が職権で当事者を追加するとき(規則三二条の二)及び中労委が職権で再審査を開始する場合(労組法二五条二項)があるが、前者については、当事者及び当事者として追加しようとする者の意見を聞いたうえ、公益委員会議の決定をもつてする必要があり(規則三二条の二第一、二項)、後者については公益委員会議の議決を経たうえ、当事者に対しその旨通知がなされることになつており(規則五六条)、当事者にとつて不意打ちとならない配慮がなされている。
(2) 申立てのあつた後、争点整理、証拠提出等審問の円滑化を目的とする調査が遅滞なく行われ(労組法二七条一項)、その旨が当事者に通知される。そして、委員会は、申立人に対しては、申立理由を疎明するための証拠の提出を、被申立人に対しては、申立書の写を送付して、それに対する答弁書及びその理由を疎明するための証拠の提出をそれぞれ求めなければならない(規則三七条一項)。
また、会長が必要と認めるときは、当事者又は証人の出頭を求めて、その陳述を聞き、その他適当な方法によつて、事実の取調べをすることもできる(規則三七条三項)。
(3) 調査が終了した後、委員会が必要と認めたときは審問が行われ(労組法二七条一項)、この手続によつて申立てが理由があるか否かを明らかにする。審問の開始に当たつては、当事者双方に審問開始通知書が送付され(規則三九条一項)、当事者が知らない間に手続が進行することはない。
審問手続は、会長の指揮に基づき、公益委員全員又は公益委員の中から一人又は数人の委員(審査委員)を選んで行われる場合もあり(規則四一条一項)、また、労、使委員はあらかじめ会長に申し出たうえこれに参与することもできる(規則三九条四項)。
審問期日は公開のうえ、原則として当事者双方の立会いを得て行われ(規則四〇条一項)、期日や場所は、そのたびごとにあらかじめ参与を申し出た委員及び当事者に、書面又は口頭で通知される(同条四項)。
審問は前記のとおり、申立ての理由の存否すなわち不当労働行為に該当する使用者の行為の有無を確定する手続であるから、当事者双方は、書証の提出、人証の申請をなすことができ、証人に関しては、当事者は尋問、反対尋問をすることができ、特に反対尋問については、その機会が充分与えられることが保障され(労組法二七条一項)、真実発見に役立つものとされている。
(4) 審問によつて命令を発するに熟すると認められるときは、会長は審問を終結する(規則四〇条一四項)が、これに先立つて、当事者双方に不意打ち的に審問を終え、立証の機会を失わせることのないよう、終結の日が予告されたうえ、最後陳述の機会が与えられる(同条一三項)。
(5) 審問が終結されると、会長は、公益委員会議を開いて合議を行い(規則四二条一項)、事実の認定をし、この認定に基づいて、申立人の請求にかかる救済を理由があると判定したときは、救済の全部若しくは一部を認容する命令を、理由がないと判定したときは申立てを棄却する命令をもつて発する(労組法二七条四項、規則四三条一項)。
(四) 中労委の行う再審査は、申し立てられた不服の範囲で行われ(規則五四条一項)、前記の調査、審問を経て、その結果、その申立てに理由がないと認めたときにはこれを棄却し、理由があると認めたときには地労委の処分を取り消し、これに代わる命令を発することができる(規則五五条一項)。もつとも、中労委は、事件の初審の記録及び再審査申立書その他当事者から提出された書面等により、命令を発するに熟すると認めるときは、審問を経ないで命令を発することもできる(同条二項)。
(五) 中労委が命令を発したときは、使用者は、当該命令の交付の日から三〇日以内に、当該命令の取消しの訴えを提起できる(労組法二七条六項)が、右訴えを提起しないときには、当該命令は確定する(同条九項)。
4 以上のように中労委による不当労働行為救済申立事件の再審査が、いわゆる準司法的作用に属し、司法作用たる裁判と性質の異なるものではなく、審査の手続面においても審査主体の組織面においても公正確保のため裁判の公正確保のためにとられている配慮に準じた配慮がなされていることからすると、前記2の法理は、中労委による再審査についても基本的に妥当するものというべきである。
5 そこで前記1記載の特別の事情があるか否かについて検討する。
原告は、中労委が本件組合の組合員による原告代表者に対する暴力行為等によつて、原告あるいは原告代表者の被つた物心両面の損害を全く評価せずに本件命令を発したことは、中労委が原告に対する加害の意思を有していたことにほかならず、前記特別事情が存する旨主張するが(被告の主張に対する原告の反論2)、原告の主張する暴力行為等によつて原告あるいは原告代表者が物心両面の損害を被つたとの事情が不当労働行為の成否の判断といかなる関連を有するものか明確ではなく、中労委が右のような事情を評価せずに本件命令を発したとしても、それが直ちに、中労委の原告に対する加害意思を推認させるものとは到底いえないものというべきである。
そして他に原告は、前記の特別事情の主張をせず(原告が請求原因3(一)ないし(三)において主張するところは、いずれも本件命令に取消訴訟において取消事由となる瑕疵があることを述べるにすぎない。)、また本件全証拠によるも右特別事情となる事実を認めるに足りない。
してみると原告の損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
三前記のとおり本件命令につき違法性が認めがたい以上、被告に対する謝罪広告掲載請求も理由がないことが明らかである。
四よつて、原告の本訴請求は、いずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官岡崎彰夫 裁判官髙橋隆一 裁判官竹内純一)